余話徒然

余話を徒然に書いていくブログ。本についての感想の「読書徒然」などをメインに。

【読書徒然】vol.1 ピカソ作品題材のミステリの傑作。「暗幕のゲルニカ/原田マハ」

原田マハの「暗幕のゲルニカ 」の文庫が書店で並んでいたので、買った。

 

傑作である。

 

これまで 原田マハの作品は「 楽園のカンヴァス 」を読んで(これも傑作)、他の作品も気になっていたのだが、アートを舞台にした「楽園の~~」があまりにもよかったので、他の設定の作品の場合、「これほどには面白くないのでは?」という気持ちもよぎり、本屋で手にはとってみるものの、結局は購入せずに来たという作家だった。

 

「暗幕のゲルニカ」は、「楽園の~~」と同じ、アートを舞台にした作品であったということもあり、ためらうことなく買ったのである。

 

登場人物は、両作品とも、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の職員が物語に絡んでおり、「暗幕のゲルニカ」ではピカソ。「楽園のカンバス」ではルソーおよびピカソ。それぞれの謎についてがテーマの作品。

 ただ、決して「楽園のカンヴァス」の続編ではないので、どちらから先に読んでも問題はない。「楽園の~~」は小劇場での小さな舞台という感じで、アンリ・ルソーの作品の真贋とその作品そのものの謎であるのに対し、「暗幕のゲルニカ」は大劇場での大舞台という感じである。

というのは、「暗幕のゲルニカ」には、作品そのもの謎に加え、ゲルニカ自身の持つ本質的なテーマ「戦争への怒り」の要素が加わっているためである。ピカソの「ゲルニカ」はナチスドイツ空軍によるスペインの町ゲルニカに対する無差別爆撃に対する怒りが制作の原動力であり、それをパリ万博のスペイン館で展示することで世界に、この非道を強く訴えたという特別な背景を持った作品である。9.11で夫を失ったMoMAのキュレーターが、自身の企画した「ピカソの戦争」展にゲルニカを展示できるか?というドラマが、この作品にスリリングなエッセンスを加えている。その辺りが、「楽園の~」と「暗幕の~」の印象の違いとなっている。ただ、どちらも傑作であることは間違いない。

 

書名:暗幕のゲルニカ (ISBN 978-4101259628)

ジャンル:アートミステリ

R-40 本屋さん大賞受賞作品

著者:原田マハ

1962年 東京都小平市生まれ。関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史家卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事を経て、森ビル森美術館設立準備室在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館に勤務。作品には『カフーを待ちわびて』『楽園のカンヴァス』『リーチ先生』『本日はお日柄もよく』『ジヴェルニーの食卓』『デトロイト美術館の奇跡』『太陽の棘』『サロメ』『たゆたえども沈まず』『モダン』